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風はすつかり途絶えていた。
言葉つきは叮重だつたし、云つたことも何ら不自然ではなかつた。だが、その挑いどむやうな強い眼の色と全身に滲み出た一種圧迫的な怒気とはその表面の叮重さを明かに裏切つていた。効果は覿面てきめんだつた。
「誰?相沢の知吉さんかね」
本堂と庫裡とをつなぐ板敷の間で、ずば抜けて背のひよろ長い、顔も劣らずに馬面うまづらの、真白な反そつ歯ぱのすぐ目につく男が突立つていた。
房一はむつつりとしたまゝ答へた。
「何しに来た!」
「まさか!」
「先生お帰りになりましたかね」
家の中でも彼は「悪たれ」であつた。一番上の兄は身体こそまだ大人ではなかつたが、一人前の野良仕事ができた。この兄は非常に無口で働き者であつた。次の兄も学校はすんでいたが、非常な好人物で、終日何を言はれても笑つていた。彼も野良を手つだつた。房一はけつして手つだひをしなかつた。どんなに叱られてもいつの間にか家を抜け出して、時には野良からそのまゝ近所の山へ木の実とりや河遊びに逃げ出した。たゞ彼が神妙に野良に出て、用事がなくとも畔くろに腰かけて立去らずにいる時は、きまつて馬がいるのだつた。
口ごもつて、
「あ、いゝ、いゝ。なんでもありやしない。今すぐ行かう」
感心したやうに呟くと、房一はくるりと向ふむきになつて歩き出した。
「かういふ玩具おもちやのやうなものを出して、年甲斐もないことでした」