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「あゝ、さうか。ふうん」
「いや、もう御免蒙つて脱いで行かう」
「おーい。渡つてもいゝかね」
「や、ありがたう」
と、その稍落ちつきのない女らしい黒瞳くろめがちな眼を道平に向けた。
と、父親の顎のあたりに又目をつけた。
練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
温泉の浴場は溪ぎわから厚い石とセメントの壁で高く囲まれていた。これは豪雨のときに氾濫する虞おそれの多い溪の水からこの温泉を守る防壁で、片側はその壁、片側は崖の壁で、その上に人々が衣服を脱いだり一服したりする三十畳敷くらいの木造建築がとりつけてあった。そしてこれが村の人達の共同の所有になっているセコノタキ温泉なのだった。
「ふうん」
男は一歩下つた。
その二つとも何か危険さを伴つていただけに、妊婦である盛子への影響を恐れたのだらうか。それもたしかに、あることはあつた。盛子は、鬼倉との時もさうだつたが、消防事件の時も、後で聞いて並々でない神経性な不安を現した。
と、盛子が傍から又さつきのをかしさを思ひ出したらしく、そつと注意した。